ISO14001情報ステーション
ISO14001実務研究室

取得以前

1.ISO14001をめぐる二つの考え方

なぜ、組織は、ISO14001の認証・登録を望むのでしょうか? その理由は、大きく二つに大別できると思います。
一つは、取引先からの要求でしかたなく、あるいは社会的信用を得ることによりビジネス機会が広がるから、という営業的な要請に基づくもの。
もう一つは、環境マネジメントシステムを導入することにより、組織の構成員一人ひとりの能力を向上させ、ひいては組織全体の力をあげていこう、という経営的な要請に基づくものです。
どちらの理由であれ、あるいはその中間的な理由であったとしても、私は良いと思います。ISO14001の認証・登録を受けるまでには、審査費用・コンサルティング費用・調査費用・人件費など、相応のコストがかかります。そのコストに見合っていると組織が考えるのなら、それは誰からも批判を受けるものではないし、迷惑をかけるものでもないからです。

しかし、認証・登録だけが目的であれば、その後の維持活動は、お荷物的な業務となってしまうことは否めません。お題目だけのシステムを維持するために事務局などの担当者は疲弊し、意欲も低下していきます。各部門でも内部監査やサーベイランスなどのときだけ、思い出したようにマニュアルや手順書を引っ張り出して、かたちだけ取り繕うようになります。やがて、環境マネジメントシステムは、業務を阻害する廃棄物として扱われるようになることでしょう。当初の目的であった取引先との関係も良好に継続し、ISO14001認証企業でござい、と言って新たなビジネスの進展があるなら、経営者からすれば、それでもまだ良いと思えるかもしれませんが。

一方、認証・登録はあくまで通過点に過ぎず、永続的な組織力の向上が目的であったなら、どうでしょうか?
事務局は使命に燃え、環境法に関する知識や幅広い人脈を構築していくかも知れません。また、各部門は競うように改善策を施し、業績も自然と右肩あがりとなるかも知れません。知れません、と書いたのは、単に永続的な組織力の向上を目的にしただけでは、そうはうまくいかないと思うからです。

この目的を達成させるためには、トップマネジメントの忍耐力と実行力が不可欠です。1年で結果が出ないから担当者が悪いとか、必要な資源を与えているのにうまくいかない、などと短期的な視点でしかトップマネジメントが見ないのであれば、その瞬間にシステムは破綻してしまうでしょう。そもそもうまく回っていないのは、資源配分や人事制度に問題があったのかも知れません。そうであるならば、担当者ではなく、トップマネジメントの責任なのですから。

今、ここで人事制度の話がでましたが、ISO14001はその序文には、次のように記述されています。「この規格には、品質、労働安全衛生、財務、リスクなどのマネジメントのような他のマネジメントシステムに固有な要求事項は含まれていないが、その要素は他のマネジメントシステムの要素に合わせたり、統合してりできる。組織がこの規格の要求事項に適合した環境マネジメントシステムを構築するに当たって、既存のマネジメントシステムの要素を適応させることも可能である」。これは、環境マネジメントシステムが組織のマネジメント体系の一部であること、裏を返せば、ISO14001の規格を活用してマネジメントシステム全体を構築することも可能であること、を示しているといえるでしょう。つまり、紙・ごみ・電気といったことを扱うだけではなく、経営全般について考え・改善していくシステムとして、機能させることが重要なのです。

人事制度を例に考えてみましょう。
ある部署で連続して同様な事故が起きたとしたら、その原因は何でしょうか?@設備の老朽化、A担当者の力不足、B外部からの工作、などなど理由はいくつも考えられます。もし、A担当者の力不足が理由であったとしたら、その力不足の理由は何でしょうか? @担当者に注意力がない、A担当者が手順を理解していない、Bそもそも人手が足りない、などなど、これまた理由はいくつも考えられます。
もし、Aが理由だとしたら、担当者が手順を理解していない理由は何でしょうか?@担当者が代わったばかりで手順書を十分理解していない、A担当者にその手順を実行するだけの力量が備わっていない、B何かの理由で担当者がやる気を失っている、などなど、ここでも理由がいくつか考えられます。が、ようやく、具体的な原因が見えてきたと思いませんか? もし、@が理由であるなら、引継ぎに関する文書作成や運用、研修などがきちんとなされていない、あるいは管理されていないことが原因でしょう。Aであるならば、適正な配属がなされていないことになります。Bであるならば、上司のマネジメントに不備がある可能性があります。いずれも人事制度を整備することにより、防げるものです。

このように、環境マネジメントシステムの運用から生じた不備を掘り下げていくことにより、組織の弱点が見えてきます。この弱点を克服するための施策を構築し、実施するのはトップマネジメントの重要な役割であるといえるでしょう。先ほどトップマネジメントの忍耐力と実行力が必要と書きましたが、まさしく、これは実行力が試される場面です。永続的な組織力の向上を目的とし、それがトップマネジメントの忍耐力と実行力によって支えられたなら、その環境マネジメントシステムは、組織を変革する強力なツールになることは間違いないと思います。

前置きが少し長くなりましたが、ISO14001実務研究室では、永続的な組織力の向上を目的とすることとして、システムのあり方について考察していきたいと思います。

2.文書・記録の意義を考える 経営者のかたへ

ISO14001:2004による環境マネジメントシステムを運用していくうえで、文書・記録は大変重要な役割を果たします。内部監査報告なども含めて本来的には、各種文書・記録類がシステム改善への指標となるからです。ここでは、よりリアルに現状を映し出せるフォーマットなどの工夫が求められています。ISO14001実務研究室では、実施及び運用の実務で、この点についてふれていきたいと思います。
また、文書・記録の読み手である責任者やトップマネジメントは、文書・記録の結果に一喜一憂しないことが求められます。結果が悪いから担当者を怒鳴りつけるなどもってのほかです。「1.ISO14001をめぐる二つの考え方」でもみたように、その責任はあなたにあるのかも知れないのですから。文書・記録は、まず冷静に分析し、あらゆる理由や原因を掘り下げ、次いでその対策を構築しなければなりません。部門長や担当者の落ち度を指導するのはその後で十分です。

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