ISO14001情報ステーション
ISO14001実務研究室

計画の実務

1.環境側面調査、環境影響評価、著しい環境側面の特定

環境側面調査では、初期環境レビューで洗い出した様々な調査結果をもとに、環境に影響を与える原因となる組織の活動・製品・サービスの要素(環境側面)を抽出します。これらの要素は、組織が管理できるもの及び影響を及ぼすことができるものすべてを含みます。こうして抽出された環境側面は、その後、一定の基準(環境影響評価)により第一次しぼりこみを実施し、さらにそのなかから一定の基準(総合影響評価)に従い第二次しぼりこみを実施したうえで、環境マネジメントシステムにおいて管理する著しい環境側面として特定します(一次評価から特定することも可能)。

(1)組織が管理できる著しい環境側面の抽出

組織が管理できる環境側面は、主に製品、サービスの製作自体に関わる工程から抽出していきます。ここでは、時間軸・空間軸を基準として実施した初期環境レビューの調査結果を中心として活用します(下図参照)。

<組織が管理できる著しい環境側面の特定手順>
組織が管理できる著しい環境側面の特定手順
STEP1/工程の細分化

まず、製品、サービスの製作工程を、企画、設計・開発、製造、流通・販売、使用、廃棄など自組織の実状にあわせて細分化します。ここで重要なのは、企画や設計・開発の段階を忘れないことです。製造段階に入る前は、直接環境に影響を与えることはなさそうに見えますが、この段階でリユース・リデュース・リサイクルが視野に入れられていれば、有益な環境影響をもたらすことが可能となります。また、そのためにはどのような原材料や半製品を仕入れればよいのか、環境に配慮した委託先はどこか、など、組織が影響を及ぼすことができる環境側面も含めて検討を実施すれば、環境側面の取りこぼしを防ぐこともできます。

STEP2/環境側面の抽出

次に、時間軸、空間軸による初期環境レビューの調査結果を細分化された工程ごとにあてはめて、環境側面を抽出していきます。その際、インプット(工程前、たとえば設備など)とアウトプット(工程後、たとえば排ガスの排出など)を考慮するとよいでしょう。具体的な作業イメージ例は、下図の通りです。

環境側面抽出のイメージ

上記の作業は、それぞれの工程を担当する部門・部署ごとに実施していきます。したがって、実際には、それぞれの工程は、さらに細分化されることになります。たとえば、古紙パルプの製造工程では、下図のように細分化されます。

古紙パルプの製造工程における環境側面

(2)組織が影響を及ぼすことができる著しい環境側面の抽出

組織が影響を及ぼすことができる環境側面は、主に原材料の仕入れや委託業者とのかかわりなどから抽出していくことになります。こちらの抽出作業においては、物流軸による初期環境レビューの調査結果を中心的に活用して実施していくことになります(下図参照)。

組織が影響を及ぼすことができる著しい環境側面の特定手順

(1)、(2)により抽出された環境側面は、部門ごとに下図のような表形式でまとめます。そして、このような表をもとに環境影響評価を実施していきます。なお、初期環境レビューから環境側面の抽出までの作業結果は、記録として管理することをおすすめします。

環境側面のまとめ方

(3)環境影響評価

部門ごとの環境側面の抽出が完了したら、次は、著しい環境側面の特定に向けて、環境影響評価による第一次絞りこみを行います。環境影響評価に際してはいくつかの評価方法がありますが、どのような方法を採用するかは、組織の自由裁量に委ねられています。組織の業態や規模を考慮して、効果的な方法を考案するのも良いかも知れません。

なお、環境影響評価で求められているのは、絶対値ではありません。ISO14001:2004規格自体が具体的な環境パフォーマンスの値を希求していないように、ここでも相対的な格付けでよいとされています。ただし、最終的に特定される著しい環境側面が、組織の事業などと対比してそぐわないものを導きだしてしまうような評価手法では、問題があるといわざるを得ません。たとえば、重油や化学物質などを日常的に貯蔵・使用するような事業であるにも関わらず、それらの管理に関する事項が特定されていないのでは、客観的にみて妥当な手法であるとは言えないでしょう。

また、ISO14001:2004規格において、環境影響は「有害が有益かを問わず、全体的に又は部分的に組織の環境側面から生じる、環境に対するあらゆる変化(3.7)」と定義されています。有益とは、廃棄物の減量化につながる活動や有害物質から無害物質への切替など、ステークホルダーや社会、自然環境に貢献するものであるといえます。有益な環境側面を、著しい環境側面として特定し、製品の設計段階などの変革を目指していくことも、環境マネジメンシステムを継続的に改善していくうえで、重要な施策であると思います。
それでは、以下、代表的な評価手法をいくつか紹介します。

(a)点数化による評価

評価項目を点数化し、その合算結果によって影響度を評価する方式です。この場合、@リスク評価をする項目ごとに基準を設け点数化すること、A算出された点数を評価する基準を設けること、が必要となります。すべての環境側面についてリスク評価をし、総合影響評価へすすめる環境側面を抽出していきます。

点数化による環境影響評価
(c)有意数による評価

該当する評価項目の数で順位づけをし、基準とする数値をクリアしたかどうかで評価する方式です。点数化による評価同様、すべての環境側面についてリスク評価をし、総合影響評価へすすめる環境側面を抽出していきます。
この方式の場合、基準値の設定が単純なだけに、説得力のある評価結果をえるためには、評価項目の設定を詳細にしたほうが良いでしょう。

有意数による環境影響評価

(4)総合影響評価 著しい環境側面の特定

総合影響評価は、環境影響評価(一次評価)によって抽出された項目を、二次評価項目及び基準により、さらに絞り込んでいくものです。環境影響評価のみで著しい環境側面を特定することも可能ですが、より精緻な抽出をするためには、総合影響評価まで実施したほうがよいでしょう。
総合影響評価における評価項目の設定は、環境面だけではなく、組織全体のリスクマネジメントの視点から設定すると効果的です。

総合影響評価による環境側面の特定

(5)評価基準となる数値設定等の考え方

環境影響評価、総合影響評価における評価基準となる数値の設定及び各項目の評価点の算出については、ISO14001:2004規格は何ら要求事項を置いていません。また、ISO14001:2004規格は、環境パフォーマンス基準にも言及しない(規格1.適用範囲)と明言しています。つまり、基準値や評価点の算出方法は、組織の自主裁量に委ねられていることになります。  一方、審査側に視点を移すと、どうでしょうか? 以下、『JAB RE 300-2004(EMA審査登録機関に対するに認定の基準)』の該当箇所である、環境側面の記録及び評価、並びに著しいとみなされた環境側面の管理(G.5.3.21.)を引用してみます。

G.5.3.21.

環境側面の記録及び評価、並びに著しいとみなされた環境側面の管理

(a) 組織が環境側面及びそれに伴う影響の特定、検討及び評価を行うための手順を一貫性を持ちながら確立し、維持していることについての信頼性を確保するために、審査登録機関は次の要因を考慮することが望ましい。

◇環境側面及びそれに伴う影響のうちどれが著しいかを特定するための基準を設定し、これを行うための手順を開発するのは、組織の仕事である。

◇組織が環境側面及びそれに伴う影響のうちどれが著しいかを決める手順が適切なものであり、また、守られているかどうかを審査するのは、審査登録機関の仕事である。

◇審査登録機関は、組織の方針、目的及び目標と組織の手順又はそれらの適用結果との間に何らかの不整合があれば、それを特定したうえで処置を求めて組織に示すことが望ましい。

上記を整理すると下記のようになります。
@組織の仕事:著しい環境側面の特定のための基準の設定・特定の手順の設定
A審査登録機関の仕事:特定の手順が適切であるか・守られているか、の審査
B審査結果:組織の方針・目的・目標に照らし不整合があれば、それを特定し組織に示す

つまり、審査において重要となるのは、特定された著しい環境側面が組織の目指そうとする方向性と一致していること、であるといえます。このことから判断するならば、基準値の設定や評価点の設定方法は、組織が見落としている(あるいは見逃そうとする)項目がきちんと拾えるような設定が望ましいことになります。たとえば、緊急事態などが頻発することが滅多にない組織であれば、緊急時の影響が大きいものは、全体の点数に関係なく著しい環境側面として特定するなど、柔軟な基準設定を考えてみてはいかがでしょうか。

(6)著しい環境側面登録表の作成

ISO14001:2004規格は、「4.3.1 b)」において、組織が決定した著しい環境側面について、文書化し常に最新のものにしておくこと、を求めています。これまで行ってきた作業に関する情報は、最終的に下図のような『著しい環境側面登録表』を作成して、管理していくことになります。

環境側面登録票

2.適用法令等の調査と管理台帳の作成

(1)適用法令の洗い出し

環境マネジメントシステムにおいて、法的要求事項は、著しい環境側面とともに管理すべき重要な項目です。法的要求事項と著しい環境側面を管理するためにPDCAのサイクルをまわしていく、といっても過言ではありません。組織が管理すべき法的要求事項の洗い出しには、1.初期環境レビュー調査の結果、2.組織が影響を及ぼすことができる著しい環境側面の抽出で作成した表を活用するとよいでしょう。具体的には、すべての環境側面に適用される法令を洗い出すこととなります。なお、作業の時間的な流れからいえば、著しい環境側面の特定に際して法的規制を評価項目として掲げているのであれば、各部門における環境側面の抽出後に実施することが必要となります。
適用法令等の調査を実施するに際しては、環境影響と対応する法令を把握したうえで、環境側面が適用を受ける法令を特定していくとよいでしょう。

<環境影響と対応する法令の把握>
環境影響 主な環境法令
大気汚染 大気汚染に関する主な環境法令としては、大気汚染防止法、道路交通法、自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法、ダイオキシン類対策特別措置法など
水質汚濁 水質汚濁防止法、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律、瀬戸内海環境保全特別措置法など
土壌汚染 農用地の土壌の汚染防止法等に関する法律、土壌汚染対策法など
住環境の悪化 騒音規制法、振動規制法、悪臭防止法、工業用水法、建築物用地下水の採取の規制に関する法律など
廃棄物・リサイクル 廃棄物の処理及び清掃に関する法律、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法、資源の有効な利用の促進に関する法律、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律、特定家庭用機器再商品化法、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律、使用済自動車の再資源化等に関する法律など
天然資源の使用 エネルギーの使用の合理化に関する法律など
地球温暖化 地球温暖化対策の推進に関する法律
オゾン層破壊 特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律など
生態系への影響 自然環境保全法、自然公園法、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律など
<代表的な環境側面と適用法>
環境影響 適用法令
ボイラーからの排ガス 大気汚染防止法
有害大気汚染物質の放出 大気汚染防止法
自家発電機からの排ガス 大気汚染防止法
マイクロバスからのNOx排出 自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する法律
配水管からの汚水流出 水質汚濁防止法
排水設備からの排水 水質汚濁防止法
化学物質・重油の流出 水質汚濁防止法
浄化槽からの排水の排出 水質汚濁防止法
敷地内における重油の漏洩 土壌汚染対策法
コンプレッサーからの騒音の発生 騒音規正法
コンプレッサーからの振動の発生 振動規制法
廃棄物の排出 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
廃棄物の保管 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
食堂等で使用したテレビの廃棄 特定家庭用機器再商品化法
社用車の廃車 使用済自動車の再資源化等に関する法律
電力の使用 エネルギーの使用の合理化に関する法律、地球温暖化対策の推進に関する法律
業務用空調設備の使用 特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律

(2)適用法令の特定

適用法令の洗い出しに続いては、@適用される条項が義務規定か、努力規定か、A適用に際して、組織の規模・要件、施設の規模に関する裾きり規定があるか、B下位法令への委任があるか、C条例への委任があるか、D許可・認可・届出などの規定があるか、などの観点から精査し、適用法令を特定します。

(a)義務規定か努力規定か

義務規定とは、「ばい煙を大気中に排出する者は、ばい煙発生施設を設置しようとするときは、環境省令で定めるところにより、次の事項を都道府県知事に届け出なければならない(大気汚染防止法第6条第1項)」というように表現された条文をいいます。義務規定は文字通り履行することが義務として課されていますので、履行しない(できない)ことは許されません。

一方、努力規定は、「・・・事業者は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、物の製造、加工又は販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が使用され又は廃棄されることによる環境への負荷の低減に資するように努めるとともに、その事業活動において、再生資源その他の環境への負荷の低減に資する原材料、役務等を利用するように努めなければならない(環境基本法第8条第3項)」のように記述された条文をいいます。努力規定は、履行するよう努めることを求めた規定で、履行されなくても罰則などによる強制は受けません。

適用法令として洗い出されたものであっても、努力規定であれば必ずしも特定をする必要はありません。しかし、立法の趣旨や社会的要請から判断するならば、組織自ら適用するものとして特定してもよいでしょう。

(b)組織の規模・要件、施設の規模に関する裾きり規定

何らかの規制を受ける条項であっても、組織の規模・要件によっては適用されない場合があります。環境法における規制は、経済的な負荷を伴うものが少なくありません。法令による規制をそのまますべての組織に適用すると、中小企業の事業活動に影響することも多く、大企業に比べ負担が大きくなってしまう可能性があります。また、同じ環境負荷に関する事業であっても、量的にみれば中小企業と大企業では負荷の絶対量が違う場面が多々ありますから、それらの事情を考量して配慮された規定が裾きり規定です。たとえば、「市町村長は、小規模の事業者に対する第9条又は前条第1項若しくは第2項の規定の適用に当たっては、その者の事業活動の遂行に著しい支障を生ずることのないよう当該勧告又は命令の内容について特に配慮しなければならない(騒音規制法第13条)」というような規定がこれにあたります。

また、施設の規模に関しても同様な裾きり規定が設けられていることがあります。たとえば、大気汚染防止法第2条に規定されるばい煙発生施設は、「・・・別表第1の中欄に掲げる施設であって、その規模がそれぞれ同表の下欄に該当するものとする(大気汚染防止法施行令第2条)」、とされているため、組織がボイラーを使用していても、「・・・伝熱面積が10平方メートル以上であるか、又はバーナーの燃料の燃焼能力が重油換算一時間当たり50リットル以上であること(大気汚染防止法施行令別表1)」という規模でなければ、ばい煙発生施設には該当しないため、法による適用を受けることはありません。

適用法令として洗い出されたものであっても、これらの裾きり規定に該当する場合は、特定をする必要はありません。しかし、緊急事態における環境への影響を考慮し、組織が自主的に適用するものとして特定することは可能です。

(c)下位法令への委任

上記の、「施設の規模に関する裾きり規定」でみたように、法律は全体の枠組を規定し、その具体的な基準や運用方法は下位法である施行令や施行規則に委任されていることが多くあります。環境側面の適用される法律を洗い出したならば、施行令や施行規則への委任規定があるかどうか確認する必要があります。たとえば、廃棄物の処理及び清掃に関する法律では、特別産業廃棄物について下記のように下位法令に委任しています。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律における下位法令への委任の例

◆法第12条第4項
事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。

◆令第6条の2第3号
・・・委託契約は、書面により行い、当該委託契約書には、次に掲げる事項についての条項が含まれ、かつ、環境省令で定める書面が添付されていること。 イ 委託する産業廃棄物の種類及び数量 ・・・ ホ その他環境省令で定める事項

◆施行規則第8条の4の2
令第6条の2第3号 ホ(令第六条の十二第三号 の規定によりその例によることとされる場合を含む。)の環境省令で定める事項は、次のとおりとする。
一 委託契約の有効期間 ・・・

このような場合、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(第12条第4項)を洗い出しても、その先の施行令、施行規則にまで調査を行わなければ、特定をすることはできません。法律でわかることは、「産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない」ことだけで、政令では委託契約書をはじめ様々な委託基準が提示されますが、委託契約書の記載内容など具体的な事項は、施行規則をみてはじめて示されることになります。
したがって、産業廃棄物の適正処理などを環境側面として掲げた場合は、廃棄物処理法施行規則第8条の4の2の規定を特定し、管理し、実施しなければ、廃棄物処理及び清掃に関する法律に違反する可能性が生じてしまうことになります。

(d)条例への委任

条例は、地方自治体議会の議決に基づき制定される法形式で、法令に違反しない限りにおいて制定されること、とされています。また条例は、当該地方公共団体内でのみ効力を有し、義務を課し、権利を制限し、罰則規定を置くことも可能とされています。

環境法で注意すべきことは、法律から条例に対し、法律が定める規定を上回る規定を盛り込める委任規定が明記されている場合があることです。たとえば、水質汚濁防止法第3条第3項では「都道府県は、当該都道府県の区域に属する公共用水域のうちに、その自然的、社会的条件から判断して、第一項の排水基準によっては人の健康を保護し、又は生活環境を保全することが十分でないと認められる区域があるときは、その区域に排出される排出水の汚染状態について、政令で定める基準に従い、条例で、同項の排水基準にかえて適用すべき同項の排水基準で定める許容限度よりきびしい許容限度を定める排水基準を定めることができる」と規定され、同条を根拠とした上乗せ条例が多くの自治体で制定されています。

また、法律の規制からは漏れているけれども、地域にとって規制が必要となる対象を、条例によって対象化させていることもあります。たとえば、水質汚濁防止法第29条では、「この法律の規定は、地方公共団体が、次に掲げる事項に関し条例で必要な規制を定めることを妨げるものではない」とされ、「特定地下浸透水について、有害物質による汚染状態以外の水の汚染状態に関する事項」など、いくつかの規定が条例へ委任されています。このような法律の条文を根拠として、地域の実情にあわせた横だし条例が多くの自治体で設定されています。

法的要求事項の遵守を考えた場合、法律による基準を遵守していても、@その基準に対して条例がさらに厳しい基準を規定している、A法律では対象とされていない施設が対象となっている、という場合は、条例による基準・対象を遵守しなければ意味がないことになります。それゆえ、適用法令の特定に際しては、工場や事業所が属する自治体の条例についてもきちんと洗い出しを実施し、規制内容を把握する必要があります。

(e)許可・認可・届出の規定

許可・認可とは、ある一定条件を満たした場合にのみ、行政官庁が業や施設の設置を認めるものです。許可・認可に際しては、その対象となる事業等に対する申請者の能力、事業を営んでいるほかの業者、周囲の環境に与える影響などが考慮されます。法律上、許可・認可の制度が規定されている場合、無許可での営業及び施設を設置は罰則の対象となります。また、届出は、基本的に届出書を提出することにより、営業を開始できます。ただし、設備が基準を満たしているかなどの確認が行われることもあります。
新規事業や新規施設を設置を予定している場合には、許可・認可・届出の規定があるかどうかを確かめる必要があります。さらに、許可・認可・届出などの規定は、一定期間経過後に更新が必要であったり、内容を変更する場合にはその報告などが必要とされたりすることがほとんどですので、それらの期間や手続方法についても正確に把握し、対応することが求められます。

<許可・認可・届出の規定例>
法律 対象者 許可・認可・届出の内容
化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 第一種特定化学物質製造等事業者 製造の許可(経済産業大臣)
大気汚染防止法 ばい煙発生施設設置者 設置及び変更につき、届出(都道府県知事)
廃棄物の処理及び清掃に関する法律 産業廃棄物の広域的処理を行う者 認定(環境大臣)

(3)法規制登録簿の作成

環境側面を規制する法令洗い出し及び特定が完了したら、参照することが可能となるように下表のように一覧表にまとめるとよいでしょう(その他要求事項については、後述)。

法的その他の要求事項登録票

3.法的要求事項の維持・管理 ― 基本は、CSR

適用可能な法的要求事項は、「定期的に評価するための手順を確立し、実施し、維持すること。組織は定期的な評価の結果の記録を残すこと(4.5.2.1 順守評価)」が求められています。ここでは、一覧表にまとめた「法的及びその他の要求事項登録表」のメンテナンスを定期的に実施し、関連する監視測定を定期的に実施し、その記録を残していくことになります。

「法的及びその他の要求事項登録表」のメンテナンスサイクルについて、ISO14001:2004規格は「定期的」と規定されているだけで、具体的なサイクルは要求されていません。では、どのくらいの期間での見直しがよいのでしょうか? もちろん、ベストは毎日確認することでしょう。しかし、法令の制定・改廃は、それこそ毎日のように行われています。そのなかから 「法的及びその他の要求事項登録表」に掲げた法令に関する情報を拾い上げるだけでも、相当の時間を要します・・・。

ここで一つ真剣に考えてみるべきことがあります。それは、本来、組織が順守しなければならない法令は、環境法だけではない、ということです。繰り返しになりますが、ISO14001:2004はその序文には、次のように記述されています。「この規格には、品質、労働安全衛生、財務、リスクなどのマネジメントのような他のマネジメントシステムに固有な要求事項は含まれていないが、その要素は他のマネジメントシステムの要素に合わせたり、統合してりできる。組織がこの規格の要求事項に適合した環境マネジメントシステムを構築するに当たって、既存のマネジメントシステムの要素を適応させることも可能である」。これは、環境マネジメントシステムが組織のマネジメント体系の一部であること、裏を返せば、ISO14001:2004の規格を活用してマネジメントシステム全体を構築することも可能であること、を示しています。つまり、環境マネジメントシステムを、経営全般について考え・改善していくシステム(の一部)として機能させていくことを考えるのならば、環境法は組織が把握・対応すべきすべての法令の一部にすぎないことになります。そうであるならば、法令を定期的に見直すベストのサイクルは組織の意識次第である、ということになるでしょう。

また、メンテナンスした法令情報は、整理され・理解されなければ意味はありません。集められたままの情報では、法令遵守のためにはまったく役に立たないからです。この作業も相当の人手とコストを要します。法令の収集・整理・把握については、多数の商品・サービスが世にでていますが、もし、自組織のなかで法令のメンテナンスに関する人材の手当て・育成ができないのならば、そうした商品・サービスを購入することも検討すべきであると思います。大規模な組織であれば法務部などのセクションや顧問弁護士の活用が考えられますが、小規模の組織ではとてもそこまでは無理でしょう。「環境法令管理室 環境法令管理ツール」紹介のコーナーでいくつかの商品・サービスを紹介してありますので、参考にしていただければと思います。

4.組織が同意するその他の要求事項

組織が同意するその他の要求事項として、「附属書A(参考)この規格の利用手引」では、@公的機関との合意、A顧客との合意、B規制以外の指針、C自発的な原則又は行動規範、D自発的な環境ラベル又はプロダクトスチュワードシップに関するコミットメント、E業界団体の要求事項、F地域社会グループ又はNGOとの合意、G組織又は親組織の公表されたコミットメント、H法人組織/会社の要求事項、が掲げられています。

公的機関との合意には、協定(公害防止協定や環境管理協定など)と要綱(地下水の保全及び利用の適正化に関する要綱や悪臭防止に関する指導要綱など)とがあります。協定は、行政と組織とが結ぶ契約(有力説)であり、要綱は、行政指導であるといえます。協定を締結することも要綱に従うことも組織の自由(実際には、完全に自由意志とは言えない部分もありますが)ですので、やると意思決定したならば、当然、組織が同意するその他の要求事項として特定する必要があります。

その他、注意すべきものとしては、たとえば、事務所等を賃貸借している場合における契約内容があります。廃棄物の排出・管理や火災などの緊急時における対応方法などを整理して、組織が同意するその他の要求事項として特定することが望ましいでしょう。

5.目的、目標、実施計画の設定

(1)環境目的・目標と経営計画

通常、企業ではその企業の存在価値を具現化した経営理念を有し、経営理念を実現していくための経営計画を策定しています。経営計画は基本的に、3年から5年後のあるべき姿を描いた中長期経営計画及び中長期経営計画を実現していくための単年度事業計画によって構成されています。経営理念―経営計画は、まさにその企業全体のマネジメントシステムであるといってもよいでしょう。

ISO14001:2004規格では、環境目的・目標は文書化されていることを求められていますが、独立した文書であることまでは要求されていません。組織における経営計画のなかに環境目的・目標が組み込まれているならば、改めて文書化する必要はないといえるでしょう。たとえば、環境負荷に深く関連する組織や環境ビジネスといわれるような業態であるならば、組織の活動、製品・サービスの製作それ自体が環境目的と符号してもおかしくありません。また、ISO14001:2004規格が要求する環境目的・目標の要件は、@実施できる場合には測定可能であること、A汚染の予防、適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項の順守、継続的改善に関するコミットメントを含めて、環境方針に整合していること、B目的・目標の設定・レビューの際は、法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項、著しい環境側面を考慮に入れること、C技術上の選択肢、財務上、運用上、事業上の要求事項、利害関係者の見解も考慮すること、D実施計画を策定すること(目的・目標達成のための責任の明示、手段、日程を含めること)、とされています。これらの事項は、経営計画の策定の際にはいずれも当然考慮される事項でもあります。

しかしながら、ISO14001:2004規格を意識しないで構築された経営計画の場合は、すべての要件を満たさないこともあるでしょうし、業態によっては経営計画と環境目的・目標を一致させるのに多少無理がある場合もあると思います。そのときは、ISO14001:2004規格にそって環境目的・目標を構築していく必要があります。以下、新たに環境目的・目標を設定する際の手法について解説します。

(2)環境目的の設定

(a)ビジョンを明確にする

まず、部門長レベルの会議体において、3年から5年後、自組織はどうなっていたいか、あるいはどうあるべきなのかについての具体的なイメージを議論します。環境法や技術などは変化が激しいので、先の予測できない部分はありますが、ビジョンがなくては進む方向が定まりません。その際、組織の規模・財務力・競争力・地域社会への貢献なども加味して具体的イメージを作成するとよいと思います。もちろん、小規模な組織であれば、全員で議論をしてもよいでしょう。

(b)現状とビジョンとのギャップを把握する

次に、これまでに抽出した著しい環境側面や法的要求事項、初期環境レビューの調査結果を活用しながら、描き出したビジョンと現状とのギャップを把握します。たとえば、汚水の排水管理には万全を期すべきである(ビジョン)が、排水管が古く時々汚水の漏洩がある(現実)、などです。
そして次に、把握されたギャップを組織の内部的な環境要因(ヒト・モノ・カネ・情報・技術など)と外部的な環境要因(法的その他の要求事項・資源・技術・ステークホルダー・取引先など)から分析していきます。その際、マーケティングによく用いられるSWOT分析(組織の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの軸から評価する手法)のフレームワークに落とし込んでいくと、整理しやすいでしょう(下図参照)。

現状とビジョンとのギャップのまとめ方

分析後、洗い出された項目を、技術上の選択肢・財務上・運用上・事業上の要求事項・利害関係者の見解も考慮に入れて、環境目的の設定を行います。上記の例では、「排水処理施設の入れ替え」について検討しましたが、「研究開発の増加に伴う他の予算の減少」を考慮して、環境目的としては設定しませんでした。そのかわり、「排水管理の徹底」のなかで、何らかの代替措置を検討していくこととしました。部門長レベルの会議体において共通理解を得られた環境目的は、経営層によるチェックを受け、正式な環境目的として設定されることになります。

しかし、もしここで、経営層として、何よりも配水管の入れ替えを優先させる、という判断をすべきだと考えるのであれば、そのように環境目的を変更すべきです。環境マネジメントシステムは、あくまで経営全体のマネジメントシステムの一部なのですから、リスク管理や財務管理などといった他の視点から俯瞰してみることも、トップマネジメントの重要な責務であると思います。そのかわり、変更するという意思決定をした際には、予算や人的な配分なども適正に考慮する必要があります。「この目的を達成しろ」というのは誰でも言えますが、そのための資源配分や権限委譲はトップマネジメントにしかできません。この点を忘れてしまうと、環境マネジメントシステムが破綻してしまうばかりか、組織の構成員のモチベーション低下にもつながりますので、要注意です。

(3)環境目標の設定

(a)環境目標は、環境目的の達成実行手段

3年から5年後を到達点とする環境目的の設定後、次は、実行可能性を考慮しながら環境目標を策定します。環境目標は、環境目的を単年度に置き直し、具体的な戦術レベルの施策に展開して設定していきます。つまり、環境目標は環境目的の達成実行手段であるといえます。また、環境目標は、部門別・月別にそれぞれ展開して作成していきます。

(b)各部門での環境目標の設定

各部門では、設定された環境目的を達成するために、どのような施策をとるかを検討します。その際、たとえば、KJ法などの手法を応用して、部門全体で討議すると効果的です。(KJ法のダウンロードサービス情報はこちらからどうぞ)

アイデアを多く出し、全員で議論することにより、思わぬ閃きが得られることもありますし、何よりも全員参加で環境マネジメントシステムを構築しているのだ、という意識づけにもなります。

各部門において設定された環境目標は、経営層によるチェックを受け、正式な環境目的として設定されることになります。環境目的同様、各部門の設定に経営層として意見がある場合は、部門長へのヒアリングを実施し、調整を行います。ただし、環境目的と違い環境目標は実行手段ですので、基本的には各部門長の意思決定意に委ねたほうがよいと思います。

KJ法を応用した環境目標の設定方法

(4)実施計画の設定

環境目標の設定終了後は、その実施計画を策定します。実施計画には、@組織の関連する部門及び階層における、目的及び目標を達成するための責任の明示(4.3.3 a)、A目的及び目標を達成するための手段及び日程(4.3.3b)、を含むことが要求されています。

実施計画は、環境マネジメントシステムを運用していく際の地図の役割を果たすべきものですから、可能な限り詳細に作成したほうが効果的です。実施計画通りに進行していないときに、自分たちが今どのあたりまで来ているのか、遅れを挽回するためには何が必要なのか、を判断するための材料となるレベルのものを目指しましょう。そのためには、ISO14001:2004規格が要求する「目的及び目標を達成するための手段」を綿密に検討・記載するとよいと思います。時間がかかるようにみえますが、環境目標の設定のときに、環境方針・環境目的との整合性、実現可能性、優先性、などの視点からきちんと検討をしていれば、その結果をまとめていく過程で自然と「目的及び目標を達成するための手段」が浮かんでくるはずです。

フォーマットとしては、下表のようにまとめるとよいでしょう。

環境目的・目標実施計画記載例

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