ISO14001情報ステーション
ISO14001実務研究室

実施及び運用の実務

1.経営資源(ヒト、モノ、カネ)の投入

(1)トップマネジメントの役割

ヒト、モノ、カネといった経営資源をどのように配分するかは、トップマネジメントの最大の役割です。環境目的・環境目標が環境方針に整合していても、実行手段に対する資源配分が適正でなければ環境マネジメントシステムは機能しません。もちろん、費用対効果を考慮し削るべきコストは削ることは重要ですが、現実にそぐわない意思決定は、わずかに残された資源すら無駄にしてしまいます。
環境目標達成のために要求された資源配分が、経営戦略全体から勘案して不当であるならば、そもそも環境目的・環境目標の設定自体に齟齬があるといわざるを得ません。環境マネジメントシステムの運用に際し、不適合の頻出や緊急事態の招来が生じた場合は、その原因の一つとして、資源配分に対するトップマネジメントの意思決定の正当性を検討する必要があります。トップマネジメントには、担当者の能力や態度を疑う前に、まず、自らの判断を検証できる柔軟性が求められているのです。判断を誤ることは誰にでもあります。
肝心なのは、失敗の原因を正確に把握し、適切な対応をとることです。そうすることによって、環境マネジメントシステムは改善され、組織全体の力も向上していくのです。

(a)ヒトの配分の注意事項

ヒトはすべての要素のなかで、最も重要な資源です。設備は対価さえ支払えばどのようなものでも購入できます。しかし、ヒトは必ずしもそうではありません。経済的価値を優先するヒトもいれば、それ以外の自己実現を大切にするヒトもいます。そのような多様な価値観を持つヒトをマネジメントするためには、何よりも適正な評価が求められます。経営層や管理者の感情が混在した評価に対しては、どのようなヒトも敏感にそれを感じ取ります。適正な基準のない評価が横行すると、やがて組織のモチベーションは低下し、環境マネジメントシステムはおろか組織全体が危機にさらされることになります。
環境目的・目標を達成させるために配置換えなどを実施する場合は、この点を十分に留意する必要があります。環境目的・目標の達成に限らず、人材の配置は経営の最大の課題です。組織全体を俯瞰すれば、当然あるいはやむをえない人事的措置というものは、避けて通ることはできません。その際、経営層からすれば当然の配置であっても、本人や周囲からすれば理不尽に思えるような場合は、納得がえられるまで説明をするよう努力すべきであると思います。辞令という紙一枚でヒトを動かすのではなく、経営層や管理者の言葉でヒトを活かすようにしたいものです。

また、長年組織に貢献したヒトは、その業務に関する暗黙知的なスキルを有している場合が多くあります。管理業務に移行することなく、現業での仕事に終始してきたヒトほど、経営層や管理者にははかり知れないスキルを秘めているものです。こうしたスキルがうまく承継されなくなると、徐々に組織力は低下していきます。著しい環境影響の原因となる可能性の高い業務においてスキル承継に問題が生じると、事態は深刻なものになります。
それを避けるためには、たとえば、彼らの有するスキルを形式知化するための仕掛けを人事制度のなかに組み入れることなどが考えられます。この仕掛けと適正な評価とが合致すれば、環境マネジメントシステムも有効に作用し、自然と環境目的・目標の達成に近づくことが可能となるでしょう。評価や配置に関する基準といった人事制度を、ISO14001:2004審査・登録を機会に見直し、経営全体のシステムの完成度をあげていくことをお勧めします。

(b)モノ・カネの配分の注意事項

設備投資や資金の配分は、環境目的・環境目標というよりも、経営計画との整合が重要になります。経営計画上、無理である設備投資を計画しても実現の可能性に乏しく無意味です。ただし、著しい環境影響の可能性を考慮して、部門長等が設定してきたのであれば、トップマネジメントは経営計画の変更も含めて再度検討をする必要があります。経営上の優先順位と危険性との兼ね合いを熟考し、適正な判断をしなければなりません。

ここで、注意したいのは、著しい環境影響の可能性が高い事項であっても、経営計画に整合しない事項は部門長レベルでとまってしまう、ということです。これではトップマネジメントが適正な判断をしたくても、することができません。部門長レベルにおける環境目的等の設定に際しては、経営計画上の縛りはいったん無視をして作成し、経営計画にそった優先順位をつけ、トップマネジメントにすべての抽出項目を提示するというルールが必要といえるでしょう。

(2)管理責任者の役割

ISO14001:2004規格は、トップマネジメントに対して、管理責任者の選任(複数でも可)を要求しています(4.4.1資源、役割、責任及び権限)。
管理責任者は、本来業務の責任にかかわりなく、@ISO14001:2004規格の要求事項に従った環境マネジメントシステムの構築・運用、Aトップマネジメントへの状況報告及び改善提案、を果たさなければなりません。いわば、管理責任者は環境マネジメントシステムの監督であるといってよいでしょう。
管理責任者は、トップマネジメントと組織構成員との間にたち、公正な判断をすることが求められます。環境マネジメントシステムを適正に運用するためには、いずれか一方を代表したり、両者を調整するようなことをしてはいけません。管理責任者には自らの意志に基づいた適正な判断が求められているのです。

また、管理責任者は、ISO事務局や担当者のよき相談役となることも重要な役割であると認識しなければなりません。特に、環境マネジメントシステムの構築時は、組織全体が現業に加えシステム設計業務という負荷を背負うことになり、各部署から不平不満が続出するのが常です。こうしたストレスは、勢いISO事務局や担当者へ向けられがちです。ISO事務局や担当者が専属の場合は、なおさらそうした傾向が強くなります。ISO事務局や担当者の業務は、直接利益を生み出すものではありませんから、往々にして彼らは弱い立場となってしまうのです。彼らのモチベーションが下がってしまうと、よい環境マネジメントシステムを構築することは不可能になってしまいます。

これとは逆に、ISO事務局や担当者が熱意のあまり暴走してしまうこともよくあります。ISO14001:2004審査・登録を錦の御旗に、各部署の都合をまったく考慮せず、次々と様々な要求をするというケースです。このような場合もISO事務局や担当者と各部署との間に対立が生じ、組織全体のモチベーションが低下していきます。この場合に注意を要するのは、管理責任者自体の現業における地位が高いほど、各部署は不平不満を飲み込んでしまいがちである、ということです。飲み込まれたストレスが蓄積されていくと、環境マネジメントシステムの構築どころではなくなってしまいますので、管理責任者は溜め込まれたストレスを解消していかなければなりません。同時に、ISO事務局や担当者の熱意を認めつつ、環境マネジメントシステムの構築と現業とが平行して進行できるよう、適正にコントロールをする必要があります。

いずれにせよ、管理責任者は、何ごともISO事務局や担当者まかせにするのではなく、組織内の状況に目を配り、時には自ら各部署と直接話し合うなどのフォローを怠らないようにすることが肝要です。

2.教育訓練と組織のモチベーション向上

前述した通り、ヒトはすべての要素のなかで、最も重要な資源です。また、ヒトは成長可能な資源でもあります。組織に貢献する人財を育成することは、組織が永続的に存在するために不可欠であり、それはトップマネジメントの求められた大切なミッションであるといえるでしょう。
ISO14001:2004では、「組織によって特定された著しい環境側面の原因となる可能性をもつ作業を組織で実施する又は組織にために実施するすべてに人が、適切な教育、訓練又は経験に基づく力量をもつことを確実にすること(4.4.2 力量、教育訓練及び自覚)」が求められています。
ここでは、二つの段階にわけて教育訓練のあり方を考える必要があります。第一は、著しい環境側面の原因となる可能性をもつ作業に従事する前段階(新入社員から中堅まで)です。この階層に属する人たちは、将来の組織を担うべき人財です。業務手順や関連知識に関するスキルはまださほど高くありませんが、そのかわり柔軟な思考と態度を有しています。彼らに対しては、基礎的なスキルを習得する機会を提供するととともに、積極的に発言をさせることによりモチベーションをあげることを基本とするとよいでしょう。第二は、実際に著しい環境側面の原因となる可能性をもつ作業を担当する段階(中堅以上)です。この階層はさらに二つの階層にわけられます。管理職などの組織経営にあたる予備軍と、専門的な技術の提供により組織に貢献していく人たちです。そして、後者に属する人たちのモチベーションをどのようにして向上させていくかが、組織発展の鍵を握っているといっても過言ではありません。この階層のプライドを認め、技術の暗黙知を吸い上げていく仕掛けを人事制度に抱合させることが肝要です。

構成員のスキル向上と必要になる施策

(1)スキル習得期の教育訓練

労働災害の発生に関するものに、ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)という有名な理論があります。1931年、アメリカの保険会社で働いていたH.W.ハインリッヒが、約50,000件もの労働災害事故を分析した結果、「1件の重大災害が発生する背景に、29件の軽微事故と300件のヒヤリ・ハットがある。またこれらの事故・出来事の88%が不安全な行動により引き起こされ、10%が不安全な環境によって引き起こされている」というものです。
この法則は、事故が確率現象であること、事故を防ぐにはその前提となっているヒヤリ・ハットから対策を講じる必要があることを示唆しています。つまり、ヒヤリ・ハットの芽を事前に摘むことができれば、重大事故へ繋がる確率は自然と減少していくことになります。

(a)具体的メニュー例

特定の技術を完全にマスターしていないこの層は、まさにヒヤリ・ハットの宝庫といえます。スキル習得期の教育訓練の一例として、彼らの体験したヒヤリ・ハットを教材として、その原因の特定・対策について議論し、実践的なスキルの習得を目指すメニューを一つ紹介しましょう。用意するものは、白紙カード(一人10枚程度)、サインペン(人数分)、模造紙(チーム数)です。模造紙は4折にして、左から「ヒヤリ・ハット」「要因」「軽微事故」「重大事故」の4つの欄を作成しておきます。この研修は、下表の手順により実施します。

ヒヤリ・ハット事例の要因分析と対策構築の手順

(2)専門的構成員のプライドを認め、技術の暗黙知を吸い上げる教育訓練と人事政策

組織における人事政策上、大きな分岐点となるのは、管理職層への登用時期です。どのような組織であれ、その組織・部門をマネジメントする管理職の存在は不可欠です。管理職にはすべての人がなれるわけではありません。それゆえ、組織全体が納得できる人事が行われることが理想ですが、なかなかうまくはいきません。近年、日本型経営の特徴の一つであった年功序列型から、成果主義・能力主義の人事制度を導入する企業が増え、この問題は新たな局面をむかえているといってもよいでしょう。

どのような人事制度であるにせよ、組織力を向上させていくためには、忘れてはならない点が最低二つあります。一つは、管理職層へ選抜されなかった構成員の処遇です。とくに、現業のベテランなど技術的に優れている場合には、彼らのモチベーションを下げることは組織にとって百害あって一理なしです。もう一つは、彼らのスキルを正確に評価し、次代に承継することです。彼らのスキルは、単純にマニュアル化できるものばかりではありません。長年その業務に従事することにより獲得した知識や人脈や手法などを、承継可能な情報へと変換させなければ、スキルは流出してしまいます。この二つを実施するための人事政策上の仕掛けが重要となります。

(a)非管理職層のモチベーション維持・向上

V.ブルームによって提唱され、L.ポーターとE.ローラーにより発展された「期待理論」では、モチベーションについて、「人が働く動機の強度は、努力により達成される結果についての期待と、結果の優位性により規定される。優位性とは、ある行為により得られる結果の効用ないしは価値である」、と規定しています。

皆が皆、この理論にあてはまるわけではないでしょうけれども、管理職層に選抜されなかったものにとっては、少なくとも、努力により達成される結果については、期待できないことになります。いわゆる組織における出世競争である以上、構成員に優劣がつくのはしかたがありません。しかし、劣後するものからプライドまで奪う結果となると、どうでしょうか?
もはや、モチベーションは修正不可能なほど低下し、結果、事故の発生原因にもつながりかねません。

ここで大切なのは、彼らの現業に対するスキルを、管理能力や経営の能力とは切り離して適正に評価することです。たとえば、ある企業においては、ISO9000を導入した際に、業務手順の変更等については管理職ではなく、もっとも熟知した担当者の承認を要する、という規定を盛り込みました。この施策は担当者のモチベーションをあげるとともに、管理職と担当者とのコミュニケーションをも増やす結果ともなっています。

また、別の企業では業務ごとにマイスター制度を取り入れ、その業務に従事するための社内資格制度を創設し、現業従事者の士気を高めることに成功しています。どちらの制度も給与制度は一切変更していません。決裁権や称号というプライドを認める仕掛けを人事政策に反映させることにより、モチベーションの維持・向上を果たした好例であるといえるでしょう。

(b)スキルを承継するための教育訓練具体例

特定の業務に長く携わっていた人には、その業務に対する専門的知識・人脈・手法など、有形無形を問わず多くのスキルを有しています。このスキルの集積は、組織にとってはかけがえのない財産となります。通常、組織においては、OJTや業務マニュアルの作成によって、スキルの承継が図られます。しかし、構成員間のコミュニケーション能力やマニュアルへの表現力の問題などがあり、表層的な部分しか伝わらない場合が多く見受けられます。

ここでは、初任者向け研修「ヒヤリ・ハット事例の要因分析と対策構築」の結果を用いて、スキルの承継を目指す研修の具体例を紹介します。用意するものは、初任者向け研修でヒヤリ・ハット事例を記載したカード、白紙カード(人数×10枚程度)、サインペン(人数分)、模造紙(チーム数×3)です。この研修は、下表の手順により実施します。

スキルを継承するための研修手順

3.内部コミュニケーションと組織活性化

内部コミュニケーションにおいて最も重要なことは、情報の共有化です。環境委員会などの会議体、朝礼、社内報、インタラネットなど、情報を共有化するための方策は媒体を問いません。ここで問題となるのは、情報の発信する側と受ける側の意識の違いです。発信する側は情報を伝えたいという意識が強いのですが、受ける側の関心が低いと、せっかくの情報が埋もれてしまうことになります。
また、発信する側が義務的な意識しかないと、情報の内容が杜撰なものとなったり、真意が伝わらなかったりすることも往々にして起こりえます。両者の意識が高いレベルで一致していなければ、真の意味でのコミュニケーションを図ることはできません。さらに、情報が複数の受ける側を経由する必要がある場合、途中で埋没したり、伝達速度が遅くなってしまい、結果、発信された意義がなくなってしまうこともあります。情報は大切な経営資源ですから、有効に活用するためのコミュミケーションツールが必要なのです。

(1)基礎情報の共有化

円滑なコミュニケーションを図るためには、組織全体の基礎となる情報が共有化されていることが前提となります。共有化すべき事項としては、各部門・部署の基本的な業務分掌、情報のレベルと伝達区分の原則、環境マニュアル・法令管理台帳・各種手順書などの客観的基礎情報などがあげられます。一方、部門・部署のみで通用するローカル言語は、組織全体で共有化できるよう翻訳されている必要がありますし、状況や関係を背景とした暗黙の了解は、言語化しておくことが重要です。これらが曖昧なままでは、誤った情報伝達がなされる可能性が高くなりますので、十分な注意が必要です。

共有化すべき基礎情報が明確になっていれば、組織内での行動の重複化や同一目的のための相反行動を防止することも可能となり、結果、コスト削減にも貢献できます。また、共有化すべき基礎情報は年々蓄積されていきますので、組織の構成員がきちんと把握・理解できるよう、教育研修のメニューとして組み込んでおくとよいでしょう。新たな情報の共有化は、同様の情報をめぐる業務のスピードの向上や工程の減少に繋がり、組織力の向上にも寄与します。

(2)有効な情報提供

情報の伝達に際しては、基本情報としての客観的な事実を伝えることが重要です。それに付加情報として、適切なアドバイスや意見などを加えると、情報の受け手側の理解の深度や業務効率の向上が期待できます。こうした主観的な付加情報が基本情報と混在してしまうと、受けて側に混乱が生じる可能性がありますので、明確に区別して伝えるようにします。付加情報を考えるうえでは、共有化された基礎情報が基盤となります。共有化された基礎情報が適切に把握・理解されているほど、有効な付加情報を考案できますので、その意味でも前述の教育研修のメニュー化は重要な意味を持ちます。
また、複数の受け手へ伝達する場合は、受信後のそれぞれの相手の行動をよく考え、付加情報を考案する必要があります。最終的な受け手に到達するまでに複数の受け手を経由する場合には、情報が途中で埋没したり、伝達の速度が鈍くなったりしないように、いつまでに誰に伝達されることを要するかを明確にすることが肝要です。

ISO14001:2004規格ではクレーム等への対応として、「外部の利害関係者からの関連するコミュニケーション二ついて受け付け、文書化し、対応する(4.4.3 b) コミュニケーション)」ことが要求されていますが、特に、クレームに関する情報伝達では、複数経由によって本来の内容が変容してしまうことのないようにそれぞれの伝達者が十分に留意することが重要となります。

情報の共有化

4.外部コミュニケーションと情報公開

外部コミュニケーションについては、二つの方向から整理するとよいでしょう。一つは、環境報告書の発行、ホームページによる情報公開、地域との定例会などのような定期的な情報公開。もう一つは、緊急事態の発生時におけるプレス発表やマスコミ対応です。ISO14001:2004規格では、「外部コミュニケーションを行うと決定した場合は、この外部コミュニケーションの方法を確立し、実施すること(4.4.3 コミュニケーション)」とされており、外部コミュニケーションの実施自体を直接要求してはいません。
しかし、定期的な情報公開は営業的な視点から極めて重要であり、緊急事態時の対応はリスクマネジメントの視点から不可欠であるといえます。したがって、環境マネジメントシステムに位置づけるか否かを問わず、組織として整備しておく必要があります。

(1)定期的な情報公開 環境報告書 ホームページの活用

定期的な情報公開については、「情報公開研究」を参照してください。
□環境報告書 →  環境報告書作成の手引 個性的な環境報告書の作り方
□ホームページ →  ホームページ作成研究 最強の営業ツールとしてホームページを活用する

(2)緊急事態時への対応 情報の発受信の一元化

緊急事態時における外部コミュニケーションでもっとも大切なことは、情報の発信・受信を一元化することです。社会的影響の強い事故などについては、複数のマスコミから取材が殺到したり、地域からのクレームが頻発したりします。これらに対して、取材・クレームを受けた構成員や担当の部門長ごとに返答をしてしまうと、組織の最終的な見解と齟齬をきたし、かえって問題が大きくなってしまうリスクが生じます。
緊急時については、外部へ情報を発信する責任者を設定し、組織が受け付けた取材・クレームはすべて責任者へ集中させます。回答も責任者以外の者は決して行わないことを徹底させます。外部からの接触を受けた者は、「後ほど、担当責任者から必ず回答する旨」を相手に伝え、連絡先とともに内容を文書化し、責任者へ回付します。
環境マネジメントシステムのなかに位置づけるのであれば、担当の管理責任者を設置しておくとよいでしょう。責任者は回付された取材やクレームについて、早急に対応策を起案し、トップマネジメントの了解をえたうえで、回答します。同時に集積された文書を分析・分類し、分類ごとの対応方法を確定させます。こうすることにより、類似の取材・クレームについては迅速な対応が可能となります。とくにマスコミからの取材に対しては、極力、早めに回答をすることが肝要です。ここで時間がかかってしまうと、余計な詮索を招き、不利な状況を作出する恐れがあり、要注意です。回答までに時間を要することが明白な場合は、いつぐらいに回答するかだけでも連絡を入れておいたほうがよいでしょう。
また、生じた事故等の原因については、臨時のプロジェクト等を早急に組織し、その究明に努めます。可能であれば、外部の専門家などにも加わってもらうとよいでしょう。原因が特定できたならば、その対応策を含め組織決定しトップマネジメントがマスコミ等に対して公表します。その際、社会的な悪影響については真摯に受け止め、誠実に謝罪の意を表すことが肝要です。生じてしまった事故はもはや止めることはできませんが、企業イメージダウンなどのダメージは、素早い対応によって緩和させることが可能です。

事態が沈静化した後は、原因・対応について組織内で共有化するとともに、環境マネジメントシステムの改善へ繋げていくことも忘れてはなりません。環境報告書やホームページなどにおいて、こうした報告を正確に掲載することも大切です。緊急時のみに対応するのではなく、事故等を教訓としていることを外部に向けて情報発信することは、決して恥ずかしいことではなく、誠実さの証明にもなりえます。

5.役立つ文書の作成とその文書の活かし方

(1)有効な文書作成のための基本条件

文書は、組織内では手順や知識の標準化・記録化の役割を果たし、組織外に対しては説明責任を果たすための証拠となります。当たり前のことですが、文書は言葉を中心として構成されています。また、文書はコミュニケーションのツールとしても機能します。すなわち、書き手の意思が読み手に理解されなければ、文書作成の目的は達成されません。いわゆる文章作成の技術については、たくさんの書籍が発行されています。体系的に学んでいけば、有効な文章作成ができるようになると思いますが、以下に記述する5点を守るだけでも、十分有効な文書を作成することができます。

有効な文書の第一条件は、使用言語の共有化です。知らない外国語で書かれた文書を理解することが困難であるように、不知の単語や表現があればそれだけで文書の内容はわかりづらいものとなってしまいます。コミュニケーションでもそうでしたが、部門・部署ごとのローカル言語は可能な限り排除する必要があります。さらに、文書が対外的に説明責任の機能を果たすことを考慮すれば、組織内では認知を得ているローカル言語も、極力、使用しないほうがよいでしょう。

第二条件は、対象の明確化です。作文の時間に習った「5WIH」が基本となります。すべての文書に「5WIH」全部が必要となるわけではありませんが、読み手を意識して文書を作成するには「5WIH」を念頭においておくことが大切です。ISO14001:2004規格が求める文書においては、芸術的な文章とは異なり、読み手の想像に委ねる部分があってはいけません。記述されている文章のみにより、全ての事実が伝達される必要があります。

第三条件は、指示の特定化です。いわゆる「こそあど」言葉や「こうした」「そうした」などの指示代名詞の濫用は、不確かな文意の伝達の原因となります。会話においては、身振り手振りなど他のコミュニケーションツールが同時に働くため、指示の明確な特定がなされていなくてもなんとなく通じてしまうものですが、文書の場合はそうはいきません。講演の内容を録音しあとで文章化したときに、何を言っているのかよくわからない、ということも往々にしてありますので、要注意です。

第四条件は、事実と主観の区別化です。記載されている内容に、事実と書き手の意見が混在してしまうとことがよくあります。読み手が何か判断をしなければならない場合に、事実と主観が混在していると誤った判断へ繋がる恐れが高くなり危険です。客観的な事実は事実、自分の主観的な意見は意見として、きちんと区別して書き分けることが重要です。

第五条件は、見直しの実施です。文書を書き終えたら、必ず最初から通読して見直しをする癖をつけるとよいでしょう。誤字脱字もそうですが、論理的に文意が通っているか、資料や数値等の誤りはないか、など総合的な視点から見直しを実施します。本当に簡単なことですが、この一手間をかけるかどうかによって文書の精度は格段に上がります。文書は、誤りがなくて当然と思われるものです。完璧な文書作成で評価されることは少ないかも知れませんが、誤りだらけの文書は確実に評価を下げることとなります。特に、外部に対して説明責任を果たすべき文書の誤りは、大きな代償をもたらすことがありますので、日ごろから注意しておくことが大切です。

(2)ISO14001:2004規格が求める文書

ISO14001:2004への改訂により、文書化すべき項目が、@環境方針、目的及び目標、A環境マネジメントシステムの適用範囲の記述、B環境マネジメントシステムの主要な要素、それらの相互作用の記述、並びに関係する文書の参照、Cこの規格が要求する、記録を含む文書、D著しい環境側面に関係するプロセスの効果的な計画、運用及び管理を確実に実施するために、組織が必要と決定した、記録を含む文書、というように明確化されました。

「環境マネジメントシステムの主要な要素、それらの相互作用の記述、並びに関係する文書の参照」とは、環境管理マニュアルのことを指していると考えてよいでしょう。環境管理マニュアルでは、関連する記述や記録・他文書などへのリファレンスをつけ、検索を容易にすることが求められます。

ISO14001:2004規格上、必ず必要とされる文書・記録及び組織が必要に応じて作成を決定する記録を含む文書は下表の通りです。なお、これらの文書類は必ずしも独立して作成することを求めているわけではありません。組織が策定した他の規程集などに含まれていれば、それにより代替可能です。

<ISO14001:2004規格上、必ず必要とされる文書・記録一覧>
PDCA 項番 具体的内容 文書・記録例
一般要求事項 4.1 環境マネジメントシステムの適用範囲の記述 環境管理マニュアル
環境方針 4.2 トップマネジメントによる環境方針 環境方針
計画 4.3.1 環境側面及び著しい環境側面の特定に関する文書 環境側面評価票/著しい環境側面の抽出票/著しい環境側面登録票
4.3.3 目的、目標及び実施計画 環境目的登録票/環境目標登録票/実施計画書
実施及び運用 4.4.1 役割、責任、権限に関する文書 環境管理マニュアル
4.4.2 著しい環境影響の原因となる可能性を有する作業を実施するすべての人の力量に関する記録 資格台帳/特定業務力量基準・実績表/教育訓練記録/教育訓練報告書
4.4.2 環境マネジメントシステムのニーズを満たすための教育訓練、その他の処置の記録 教育訓練計画書/教育訓練記録/教育訓練報告書
4.4.3 外部の利害関係者からのコミュニケーションに関する受付及び対応に関する文書・記録 外部連絡受付台帳/外部連絡書/苦情処理報告書
4.4.6 環境方針並びに目的・目標から逸脱するかも知れない状況を管理するための手順に関する文書 各種手順書(省エネルギー実施手順書・グリーン購買手順書・防火及び緊急時対応手順書・廃棄物管理手順書など)
点検 4.5.1 監視及び測定手順におけるパフォーマンス、適用可能な運用管理、並びに組織の環境目的・目標との適合を監視するための文書 各種監視・測定記録表
4.5.1 監視及び測定機器の校正又は検証の記録 機器管理台帳
4.5.2.1 法的要求事項の順守の定期的評価の記録 法的規制その他の要求事項一覧表/順守記録表
4.5.2.2 その他の要求事項の順守の定期的評価の記録 法的規制その他の要求事項一覧表・順守記録表
4.5.3 是正処置及び予防処置の結果の記録 不適合並びに是正処置及び予防処置報告書
4.5.4 環境マネジメントシステム及び規格要求事項への適合、達成した結果を実証するのに必要な記録 環境目標登録票/実施計画書/実施記録
4.5.5 内部監査の計画及び実施、結果の方向並びにこれに伴う記録 監査計画書/監査不適合報告書/監査是正書/監査報告書
マネジメントレビュー 4.6 マネジメントレビューの記録 マネジメントレビュー議事録/マネジメントレビュー報告書
<組織が必要に応じて作成を決定する記録を含む文書 >
PDCA 項番 具体的内容 文書・記録例
計画 4.3.1 環境側面及び著しい環境側面の特定するための手順 環境側面評価特定手順書/著しい環境側面評価特定手順書
環境方針 4.3.2 法的要求事項及びその他の要求事項を特定・参照・環境側面への適用の決定をするための手順 法的規制その他の要求事項一覧表作成手順書
実施及び運用 4.4.2 組織で働く又は組織のために働く人々に自覚させるための手順 教育訓練手順書
4.4.3 内部コミュニケーションに関する手順 環境委員会実施規定/環境コミュニケーション実施規定
4.4.3 外部の利害関係者からのコミュニケーションに関する手順 環境コミュニケーション実施規定
4.4.3 外部コミュニケーションの方法に関する文書(実施する場合) 環境コミュニケーション実施規定
4.4.5 文書管理に関する手順 環境マネジメントシステム文書管理規定/文書管理手順書
4.4.6 組織が用いる物品及びサービスの特定された著しい環境側面に関する手順 グリーン購買手順書/グリーン購買ガイドライン
4.4.7 緊急事態・事故の特定、またそれへの対応のための手順 緊急事態・事故報告書/緊急事態・事故教育訓練記録表/緊急事態・事故予防活動記録
点検 4.5.1 運用の鍵となる特性を定常的に監視・測定するための手順 監視及び測定手順書
4.5.2.1 法的要求事項の順守を定期的に評価するための手順 法的規制その他の要求事項順守手順書
4.5.2.2 その他の要求事項の順守を定期的に評価するための手順 法的規制その他の要求事項順守手順書
4.5.3 不適合への対応並びに是正処置及び予防処置に関する手順 不適合への対応並びに是正処置及び予防処置手順書
4.5.4 記録の管理に関する手順 記録管理手順書
4.5.5 内部監査に関する手順 内部監査手順書

(3)文書と記録の違い

記録は文書の一種ですが、両者には決定的な違いがあります。文書は環境管理マニュアルに代表されるように、環境マネジメントシステムの継続的改善によって、第1版、第2版というようにその内容が変化していきます。一方、記録は一度録られた以上、その記録自体を書き換えることはできません。記録はその時点、その時点の状態を表すものであり、その結果として文書が改訂されていくのです。したがって、両者の管理方法もISO14001:2004規格においては異なった扱いとなっています。文書は、4.4.5文書管理によって、記録は4.5.4記録の管理によって、その管理方法が定められています。文書管理の基本は、文書の変更の識別及び現在の改訂版の識別が確実にできることにあります。一方、記録の管理の基本は、識別可能であり、追跡可能であること、です。つまり、文書管理においては、内容現在となっていることの証明が、記録の管理では過去の状態の検証が、可能であることが重要であるといえます。

6.運用管理

環境マネジメントシステムの運用管理は、組織内にかかわる部分と組織外にかかわる部分とに分かれます。組織内においては、手順書などの作成により業務を標準化することが求められます。
一方、組織外については、環境マネジメントシステムの方針等を委託業者などの外部関係者に伝達することによって、より広範囲にわたる環境側面の管理を志向していくことが肝要となります。

(1)手順書の作成・実施・維持

手順書とは、環境目標を達成するために必要となる情報を記載した文書です。したがって、目的(なぜ)・適用範囲(どこで)・責任(誰が)・具体的手順(どのように)・具体的運用(いつ、何をする)が記載されている必要があります。また、手順書は組織内における共通ルールですから、同じ条件であれば誰でも同じような行動がとれるように定めた運用基準が定められ明記されていなければなりません。その他、必要に応じて、共通言語としての定義・見直しに関する規定・不適合の定義・緊急事態時の対応方法・他文書との関連等の情報も盛り込むことが求められます。

製造業をモデルとした場合、必要となるであろう手順書には、たとえば、「電気使用量削減手順書」「廃棄物管理手順書」「紙使用量削減手順書」「排水管理手順書」「化学物質取扱手順書」「協力会社管理手順書」 「紙使用量削減手順書」「事故・緊急事態対応手順書」「騒音・振動管理手順書」などが考えられます。

手順書は、記載されている見直し規定に関わらず、不適合や緊急事態が生じた場合には必ず見直しを実施します。また、「スキルを承継するための研修」等の教育訓練によって、よりよい手順が発見されることもありますので、そのときにも忘れずに手順書の改訂ができるようにしておくとよいでしょう。さらに、測定を要する手順などは法令改正に伴い、改訂しなければならない場面もありますので、「法的及びその他の要求事項登録表」のメンテナンスを行う際にも、結果を反映できるように見直しを実施します。

(2)組織外への伝達

環境マネジメントシステムの運用について伝達すべき外部の関係者としては、原材料等の仕入先や業務の外注先等が考えられます。
仕入れについては、たとえば「購買管理手順書」を作成し、仕入先と情報を共有化することにより、間接的に影響を及ぼすことが考えられます。また、業務の外注先に対しては、同様に「外注管理手順者」を作成し、外注先と情報を共有化することにより、間接的に影響を及ぼすことが考えられます。
このとき、環境マネジメントシステムを隠れ蓑にして、仕入先や外注先に不当な圧力をかけることのないよう注意する必要があります。自組織の論理を理解してもらったうえで、間接影響を及ぼすことができるのであって、自組織に有利なように取引自体を誘導するのではありません。特に自組織が優越的地位にある取引先に対して一定の負荷をかけ、その対価についても有無も言わせず一方的に押し付けるのでは、環境マネジメントシステム以前に、コンプライアンスの精神に欠けることになり本末転倒の結果となりかねません。

外部の関係者は、環境マネジメントシステムを継続的に改善させていくためのいわばパートナーでもあります。仕入先・外注先・販売先などとは、環境マネジメントシステムのサプライチェーンを築くぐらいのイメージで、お互いの業務を理解しあい、システム上の繋がりを構築していくべきです。理想を言えば、たとえば法令改正により使用すべき原材料に対する規制が厳しくなった場合など、一方的に代替となる原材料を求めるのではなく、仕入先及び納品先と共同でマーケティングを行い、代替原材料を探すのがよいのか、製品自体の設計を替えることで対応したほうがよいのか、あるいは両方一緒に実施すべきか、などを検討することが考えられます。個別バラバラに法令対応改正に対応するよりも、外部組織をあわせた一連の流れのなかで検討したほうが、環境への影響も商品・サービスへのコストへの影響も、より大きな効果を生み出すことが可能となります。その結果、環境マネジメントシステムの運用も継続的改善へと発展していきます。

7.緊急事態への準備及び対応

(1)緊急事態への準備

どのような完璧なシステムであっても、事故や緊急事態は必ず生じます。教育訓練と組織のモチベーションの項でも紹介したハインリッヒの法則(1:29:300の法則)でみたように、まさしく事故は確率現象であるからです。しかし、確率現象であるからこそ、準備のしようによっては、その確率を低減するとともに被害を最小限度に抑えることは可能です。潜在的な緊急事態・事故へつながる可能性を徹底的に洗い出し、その一つひとつに対策を講じることは、ISO14001:2004規格上も求められています(4.4.7 緊急事態への準備及び対応)。

潜在的な緊急事態・事故へつながる可能性の洗い出しは、初期環境レビューから環境側面の抽出の際に一緒に実施するのがもっとも効果的です。初期環境レビューでは、時間軸・空間軸を基準として操業中の工場・事業所などにおける活動、製品・サービスに活用するあらゆる要素の洗い出しを実施しました。このときに、各種設備や工程における潜在的なリスクをリストアップしておくことで、準備すべき内容があきらかになります。→効果的な初期環境レビュー

緊急事態への準備及び対応

緊急事態・事故への対応手順が確立されたら、次は実際にテストを実施します。頭のなかで考え、文書化した対応手順が、現実の緊急事態・事故の際に役立つのかどうか、実際に身体を動かして試して見ることが重要です。テストにおいては往々にして、想定外の問題が生じるものです。テストによって発見された問題は適正に解決し、手順書を改訂します。
テストの様子は、可能であれば複数のビデオ等で撮影しておくと、問題の発見が容易になります。緊急事態・事故時は、事故現場を含め複数の場所で複数の人が対応しなければなりません。お互いの様子がどうであったか、全体の流れは適切であったかを、実際の対応者が客観的に判断することは困難です。テスト後、撮影した映像等を見比べながら検討を行えば、細部の問題点まで抽出が可能になります。また、これらの映像は、教育訓練の教材としても有効に活用することができます。

(2)緊急事態への対応

緊急事態・事故が生じてしまった場合は、これまでの準備に従い冷静に対処するしかありません。細かい対応はそれこそケースバイケースですのでここでは触れませんが、大切なのは処置後(一部処置中も含む)の二つの対応です。

(a)外部コミュニケーションの重要性

一つは、外部コミュニケーションでも触れたように、情報の発信・受信を一元化することです。マスコミや地元からの質問に対する、不誠実な態度、あやふやな回答、首尾一貫しない対応、時間をかけすぎる報告などは、実際の事故以上に組織のイメージを破壊します。負のレッテルを一度貼られてしまうと、それを取り戻すのには通常の倍以上の努力が必要となりますから、注意が必要です。詳細は、下記をご参照ください。 →外部コミュニケーションと情報公開

(b)原因特定の重要性

もう一つは、すべての処置が終わった後に、必ず原因を特定し、手順書や教育訓練方法を改訂することです。
事故の原因には見えるものと見えないものとがあります。たとえば、重油タンクからの重油の漏洩事故が起きたとします。事故の引き金は、バルブの閉め忘れだったとしましょう。しかし、原因はこれだけではありません。なぜ、バルブが閉め忘れられたのでしょうか? 担当者・個人に責任を求めるのであれば、「訓練不足」「不注意」「手順書違反」「判断ミス」などが、環境・設備に問題があったのだとすれば、「設備不良」「原材料の変化」「外注先の変化」などが、組織・運営がまずかったのであれば、「手順書不備」「人員不足」「管理ミス」など、いくつも原因が考えられます。

この見えない原因が特定されなければ、環境マネジメントシステムの修正はできません。本来、人員不足が原因であったならば、担当者が始末書を書いたところで、また同じ事故を誘発する危険性は残ったままとなります。また、設備不良が原因であれば、いくら人員を増員したとしても根本的な解決にはなりません。

(c)原因特定及び対策構築のための手法

事故原因を特定するためには、たとえば、4M-4EマトリックスやSHELモデルなどの手法があります。
4M-4Eマトリックスとは、下表のように4つのMで要因分析を行い、4つのEで対策をたてようとするものです。4つのMとは、Man(人間)、Machine(物、機械)、Media(環境)、Management(管理)であり、4つのEとはEducation(教育、訓練)、Engineering(技術、工学)、Enforcement(強化、徹底)、Examples(模範、事例)です。

4M-4Eマトリックスと分析の方向性の例
  Man(人間) Machine
(物、機械)
Media(環境) Management
(管理)
対策/具体的要因 訓練不足、不注意、手順書違反、判断ミスなど 設備不良・故障、原材料の変化、外注先の変化など 気象、地形、天災、勤務形態など 手順書不備、人員不足、管理ミスなど
Education
(教育、訓練)
◆どのようなスキルが必要となるか?
◆そのための教育訓練はどうあるべきか?
◆操作方法の教育訓練方法などに問題はないか? ◆災害時における教育訓練は行われていたか? その内容は適切であったか? ◆管理責任者の指示は適切であったか?
Engineering
(技術、工学)
◆設備の操作の難易度は適切か? ◆新型設備はないか?
◆よりよい操作マニュアルはないか?
◆非常装置はきちんと作動したか? ◆設備点検、監視・測定結果を把握して対策を立てていたか?
Enforcement
(強化、徹底)
◆操業前後の確認点検はきちんとなされているか? ◆手順書の徹底はなされているか?
◆操作方法は周知されているか?
◆勤務形態、条件に無理はないか? ◆管理責任者は適切な管理を実施していたか?
◆手順書に不備はないか?
Examples
(模範、事例)
◆適切な模範事例はないか?
◆教育訓練に適する人材は誰か?
◆適切な模範事例はないか?
◆設備製作元に照会をしたか?
◆適切な模範事例はないか?
◆過去に同様の事項は生じていないか?
◆適切な模範事例はないか?

SHELモデルは、当事者である人間(中心のL:LIVEWARE)が最適な状態を保つためには、4つの要因が影響しているということを表したものです。中心のLが不定形な外縁となっているのは、人間が状況によってその能力や限界が様々に変化することを表しており、その不定形な外縁にピッタリと合うように4つの要因と当事者自身の対応を考えるというモデルです。

SHELモデルによる要因特定と分析の方向性

4M-4Eマトリックス、SHELモデルは、緊急事態・事故の見えない要因を究明するのに非常に適した分析方法です。環境マネジメントシステムを継続的に改善していくためには、たとえば、不適合となった事項や内部監査による指摘事項などについても、これらの手法を用いてその原因をつきとめ、対策を講じていくことが考えられます。また、これらの手法を習得するために、実例を加えた教育研修を実施することも効果的であると思います。 緊急事態・事故の原因が特定され対策まで分析した後は、環境管理マニュアルの該当箇所や手順書などを確実に改訂していきます。場合によっては、教育研修カリキュラムや人員配置なども含めて、環境マネジメントシステム及びマネジメント全般を改善していくことが必要となるかも知れません。

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